根管洗浄とは?根管治療で使う薬剤と濃度のはなし|clara dental clinic|北九州市小倉北区の歯医者

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医療コラム

根管洗浄とは?根管治療で使う薬剤と濃度のはなし|clara dental clinic|北九州市小倉北区の歯医者

根管洗浄とは?根管治療で使う薬剤と濃度のはなし

「神経の治療」と聞くと、何度も通院して細い器具で削るイメージをお持ちの方が多いかもしれません。実は治療の成否を大きく左右する重要なステップが「根管洗浄」——根管の中を薬液で徹底的に清掃する工程です。今回は、どんな薬液をどのくらいの濃度で使うのか、その理由もふくめてわかりやすくご説明します。

そもそも、なぜ洗浄が必要なの?

歯の根の中にある細い管(根管)には、器具で削るだけでは取り除けない細菌や壊死した組織が残ります。そのまま放置すると根の先(根尖)に炎症が起き、治療が失敗する原因になります。薬液による洗浄は、器具が届かない複雑な形の管の隅々まで殺菌・清掃するために欠かせません。

理想的な洗浄液の条件としては、①強い抗菌性、②有機物を溶かす力、③低い細胞毒性、④スメア層(削りかすの層)の除去、⑤根の先の組織への悪影響がないこと、などが挙げられます。しかし、これらすべての条件を満たす”万能”な洗浄液は存在しません。そのため、異なる特性を持つ複数の薬剤を組み合わせて使用するのが現在の標準的なアプローチです。(Zehnder M., J Endod. 2006)

① NaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)

根管洗浄の主役です。一般家庭でも使われる塩素系漂白剤と同じ成分ですが、歯科ではより厳密な濃度管理のもとで使用します。

NaOClは水に溶けると次亜塩素酸イオン(OCl⁻)と水酸化物イオン(OH⁻)に分かれ、強いアルカリ性を示します。この性質が細菌の細胞壁や遺伝子を破壊し、さらに壊死した組織(タンパク質・脂肪酸)を溶かす力も発揮します。根管洗浄液のなかで唯一、組織溶解性を持つ薬剤です。

濃度については、抗菌効果は0.5〜5%の範囲で認められ、組織溶解性は2.5〜5.25%が有効とされています。一方で細胞毒性(体への刺激)は2〜8%の範囲で有意な差がなく、高濃度にしても毒性が劇的に増すわけではありません。(Thé SD et al., J Endod. 1980)これらを総合すると、2.5〜3%前後が効果と安全性のバランスの取れた実用的な濃度といえます。

ひとつ注意が必要なのが「ヒポクロアクシデント」と呼ばれる根管外への漏出事故です。もし薬液が根の先から外に出てしまうと、即時の強い痛みや腫れ、皮下出血などが起こることがあります。女性や上顎骨、骨密度の低い部位で起きやすいとされており、使用な際は常に慎重に操作しています。(Zhu WC et al., J Dent. 2013)

② EDTA(エチレンジアミン四酢酸)

EDTAは「スメア層」の除去に特化した薬剤です。スメア層とは、根管を器具で削る際に生じる削りかすの薄い層で、象牙芽細胞・微生物・壊死組織などが混在しています。この層が残ったままでは、薬液や根管充填剤が象牙細管の中まで届かず(Orstavik & Haapasalo, Endo & Dent Traum. 1990 / Bystrom & Sundqvist, IEJ. 1985)、細菌が再び増殖する温床にもなりかねません。(Shahravan et al., JOE. 2007)

EDTAはカルシウムイオンをキレート(特殊な化学結合)することで、スメア層の無機質成分を溶かし取り除きます。NaOClが有機質を溶かすのに対し、EDTAは無機質を担当するという、いわば”役割分担”です。

濃度は**17%**が標準で、10%と比べて有意に多くのリンを溶出し、脱灰効果が高いことが示されています。また中性(pH7.5)のほうがアルカリ性(pH9.0)より効果が高く、17%・中性の製品が最も有効とされています。(Serper A, Calt S., J Endod. 2002)使用量は1〜10mlで除去効果に差はなく、少量でも十分です。(Crumpton BJ et al., J Endod. 2005)使用時間は約1分が目安で、10分以上置くと象牙質そのものを過剰に侵食してしまうため注意が必要です。(S Calt et al., J Endod. 2002)

③ CHX(クロルヘキシジン)

CHXの最大の特長は「残留抗菌活性(Substantivity)」です。処置が終わった後も、象牙細管に吸着したCHXが長時間にわたって抗菌効果を発揮し続けます。研究では2%CHXが50日間にわたりE. faecalis(根管治療の失敗に関わる難治性菌)の再増殖を抑制したと報告されています。また濃度が高いほど残留抗菌活性は長く維持され、2%CHXは0.2%CHXや0.2%セトリミドと比較して最も長期間の抗菌効果を示しました。(Ferrer-Luque CM et al., Int J Oral Sci. 2014)

即時の抗菌効果は5.25%NaOClと同等ですが、CHXには組織溶解性がありません。(Jeansonne MJ, White RR., J Endod. 1994)そのため単独では使わず、NaOClとEDTAによる洗浄の後に最終洗浄液として用いるのが一般的です。特に感染根管(すでに細菌が深く侵入した歯)の症例で使用を検討します。

細胞毒性については、短時間(1時間)ではNaOClより低いものの、24時間・72時間後にはほぼ同等になるというデータがあります。(Ok E et al., Eur J Dent. 2015)日本では0.5%以上の製品を口腔粘膜に使用した際のアナフィラキシー報告を受け、2015年に添付文書が改訂されており、口腔内使用は低濃度製品(0.05〜0.2%)が推奨されています。根管治療で使用する場合は、ラバーダム防湿をはじめとして、根尖からの溢出を避けるなどの留意が必要です。

薬剤を使う順序と組み合わせの注意点

薬剤の組み合わせには重要な注意点があります。NaOClとEDTAが接触すると、NaOClの有効塩素濃度が急激に低下し、殺菌・溶解能がほぼ失われてしまいます。交互に使う場合は、EDTA使用後に十分な量のNaOClで洗い流してから次のステップに進む必要があります。(Grawehr M et al., J Endod. 2003)

また、NaOClとCHXを直接混合すると茶褐色の沈殿物(パラクロロアニリン)が生じ、細胞毒性を持つ可能性が報告されています。この2剤を使い分ける際は、必ず蒸留水による洗浄ステップを間に挟むことが必須です。(Krishnamurthy S et al., J Endod. 2010)

標準的な使用例としては、抜髄症例では「NaOCl(形成中)→ EDTA → NaOCl(仕上げ)」、感染根管症例ではさらに「→ 蒸留水 → CHX」と続けるプロトコルが広く用いられています。(Zehnder M., J Endod. 2006)

根管洗浄は、地味に見えて治療の長期的な成功を左右する非常に重要な工程です。使う薬剤・濃度・順序・時間、そのすべてに科学的な根拠があり、その一つひとつに意味があります。できる限り歯を長く残せるよう、エビデンスに基づいた丁寧な治療を心がけています。