抗菌薬(AMR対策)について
- 2024年11月20日
- その他診療について
AMRとは、Antimicrobial Resistance(薬剤耐性)、いわゆる薬剤に耐性ができ抗菌薬が細菌に効かなくなる現象で、世界中で問題となっています。
1928年、フレミングがアオカビからペニシリンを発見したことは有名ですが、そのフレミングがノーベル生理学・医学賞を受賞した際に、「ペニシリンが誰でも購入できる時代が来た時に、無知な人が必要量以下の用量を内服した場合、体内の細菌に非致死量の薬剤を暴露させることで、薬剤耐性菌を生み出してしまう可能性がある」とも述べています。
国内でも様々な耐性菌が存在しており、このままでは2050年にはAMRで亡くなる人が年間1,000万人に達し、がんでの死亡者を上回ってしまうとの報告もあります。
歯科疾患や怪我からの感染、また術後感染などで、抗菌薬が効かなく死亡する例も今後出てくる可能性もあるということです。
2015年、WHO総会において「AMRに関するグローバル・アクションプラン」が採択され、加盟国が国家行動計画を策定することが求められました。
- 普及啓発
- 動向調査・監視
- 感染予防・管理
- 抗生物質の適正使用
- 研究開発
感染予防・管理は誰でもできる手荒いうがい、などに代表されると思いますが、AMR対策として我々ができることは何でしょうか。
その中でも、抗生物質の「不適切な使用法」について考えてみたいと思います。
・誤った適応での使用:
特に問題となるのは、ウイルス感染症に対する抗菌薬の使用です。一般的な感冒(かぜ症候群)の約80%はウイルスが原因です。ウイルスに対して抗菌薬は全く効果がないにもかかわらず、症状改善への期待により処方されることがあります。このような使用は、耐性菌を生み出すリスクがあるだけでなく、患者の正常な腸内細菌叢を乱す可能性もあります。必要な検査を実施することで感染源を特定し、症状の慎重な評価をする必要があります。
・不適切な薬剤使用:
また、広域抗菌薬の不必要な使用があげられます。本来、狭域の抗菌薬で治療可能な感染症に対して、より広域のスペクトラムを持つ抗菌薬を使用することは、耐性菌出現のリスクを高めることになります。例えば、単純な歯性感染症に対し、第一選択薬のペニシリン系薬を使用せずに、セフェム系やクラビットなどのニューキノロン系などの広域抗菌薬を選択するケースが該当します。
・投与期間の問題
まず、過剰な投与期間についてです。臨床現場ではしばしば、必要以上に長期間の抗菌薬投与が行われることがあります。また、観血的処置後の予防投与においても、エビデンスに基づかない長期投与が行われることがあります。このような過剰な投与は、耐性菌の出現リスクを高めるだけでなく、患者の腸内細菌叢を乱し、副作用のリスクも増加させます。
一方、不十分な投与期間も深刻な問題です。症状が改善したことで患者が自己判断で服用を中止するケースや、軽度の副作用出現を理由に必要な投与期間を満たさずに中止してしまうケースがあります。不十分な投与期間は、感染症の再燃や耐性菌の選択的な増殖を引き起こす可能性があります。
適応症によりまずは狭域のスペクトラムを持つ抗菌薬を使用し、患者さんには投与期間を遵守してもらうことが大切になってきます。
【狭域】
アモキシシリン(サワシリン®):ペニシリン系
エリスロマイシン:従来型マクロライド系
【中間的】
クラリスロマイシン(クラリス®):新マクロライド系
アモキシシリン(オーグメンチン®):ペニシリン系
【広域】
セフテラム(トミロン®):セフェム系
アジスロマイシン(ジスロマック®):新マクロライド系
セフカペンピボキシル(フロモックス®):セフェム系
レボフロキサシン(クラビット®):ニューキノロン系
適応症による使い分け
狭域抗菌薬の適応:
- 軽度の歯周炎
- 単純な歯性感染症
- 抜歯後感染予防
- 歯髄炎
- 根尖性歯周炎(軽症)
広域抗菌薬の適応:
- 重症歯性感染症
- 顎骨骨髄炎
- 蜂窩織炎
- 難治性感染症
抗菌薬は、必要な場合のみの使用し、適切な薬剤選択と適切な投与期間の遵守が大切です。世界中で問題になっているAMRを、社会全体の問題としてとらえ、対策に取り組んでいきましょう。